真夜中にふと窓の外を見ると、街灯の下に誰かが立っている。

異様に背が高く、細長い身体。

そして頭には巨大なシルクハット。

その姿は、世界的に知られる児童文学のキャラクター「キャット・イン・ザ・ハット」によく似ていた。

2026年夏。

イギリスやアイルランドのSNSで、奇妙な“目撃映像”が次々と投稿され始めた。

住宅街を歩く猫、民家の窓を覗き込む猫、防犯カメラの前に立つ猫。

そして噂は、いつしかこう変わっていった。

「キャット・イン・ザ・ハットの格好をした何者かが、夜の街を徘徊している」

冗談から始まったはずの怪談は、ついに警察が声明を出すほどの騒ぎへと発展する。

いったい、何が起きていたのだろうか。

始まりは一つの不気味なミームだった?

現在確認できる流行の原点は、2026年6月末ごろまで遡る。

TikTokの動画は削除されてしまったが、2003年の実写映画版『キャット・イン・ザ・ハット』の映像を使ったブラックユーモア的な動画が投稿された。

陽気に踊るキャット。

しかし、そこに添えられた文章と音楽は妙に暗い。

本来は子ども向けのキャラクターであるはずなのに、編集によってその笑顔が不気味に見えてくる。

この動画は削除されるまでに、わずか1週間ほどで440万回以上再生されたと報じられている。

※こちらの動画はXにて発見されたもの

そして、これらを模倣した動画を作る人間が次々と現れた。

https://www.tiktok.com/@swerv3y12/video/7678798494143925524?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id=7678964421213701639

かわいいキャラクターを、何か恐ろしいことが起きる直前の映像のように見せる遊びが始まったのだ。

だが、ここまではまだ単なるネットミームだった。

本当に奇妙になるのは、この後である。

キャット・イン・ザ・ハットが街にいる

7月から8月にかけて、投稿される映像の雰囲気が変わっていく。

映画の切り抜きではない。

今度は、現実の住宅街にキャット・イン・ザ・ハットが現れたように見える映像が投稿され始めたのだ。

ある時は暗い道路の向こうに立っていたり、車の上にしゃがみ込んでいる。

またまたある時は家の前の防犯カメラに映り込んでいたり、窓の外からこちらを覗いている。

映像の多くは夜間に撮影されたような粗い画質で、まるで偶然撮影されたファウンド・フッテージのように作られていた。

※投稿には「パルミーのみんな、気をつけて。ゴールデン・ドラゴンズの近くで『キャット・イン・ザ・ハット』みたいな奴が目撃された。変な歩き方でウロウロしてるぞ! ドアには鍵をかけておけ」と添えられた

キャット・イン・ザ・ハットは画面の中の陽気なキャラクターから、夜の住宅街を徘徊する正体不明の存在へと変わっていったのだ。

目撃情報がイギリスとアイルランドへ拡散

噂は一つの街だけでは終わらなかった。

アイルランドのウェックスフォードやリムリックなどで「目撃した」とする投稿が現れ、さらにイギリス各地にも似たような映像が拡散。

その土地にいる者は作り物だろうと思っていても、“もしかすると近所にいるかもしれない”

という感覚だけが残る。

SNS上では、本当に存在すると信じて怖がる若者まで現れたという。

ネットの中だけだった怪談が、現実の街と結びつき始めた瞬間だった。

10年前の殺人ピエロ騒動

今回の騒動を見て、2016年に世界各地で起きた「不気味なピエロ」の騒動を思い出した人もいるだろう。

夜の道路や森の入り口、住宅街様々な場所へ突然、ピエロの格好をした人物が立っている。

SNSで映像が拡散されると模倣する人間まで現れ、ネット上の怪談と現実のいたずらの境界が曖昧になっていった。

キャット・イン・ザ・ハット騒動も構造はよく似ている。

「存在しない怪物」が警察を動かした

結局、夜の住宅街を徘徊するキャット・イン・ザ・ハットは、本物ではなかった。

少なくとも現在確認されている騒動について、警察によるとAIによる偽物だと説明している。

https://uk.news.yahoo.com/police-issue-statement-creepy-cat-125200140.html

存在しないはずの怪物について人々が映像を見て、噂を広げ、模倣する人間とそれを怖がる人間が現れる。

ついには警察が「そんなものはいない」と説明しなければならなくなった。

かつて都市伝説には証拠がないことが付きものだった。

だが、AI時代の都市伝説は証拠そのものを作れてしまう。

次にあなたの街で、夜中に奇妙なものが目撃されたという映像が拡散されたとき。

それが偽物だと、あなたはすぐに見抜けるだろうか。

そして、偽物だと分かっていても、深夜に窓の外を確認せずにいられるだろうか。